「ガリバー旅行記」(スウィフト)①

体制批判者スウィフトは階級社会を肯定していた

「ガリバー旅行記」(スウィフト/山田蘭訳)角川文庫

船が難破し、救命ボートまで
転覆してしまった「わたし」は、
幸運にも陸地に
たどり着くことができた。
目覚めた「わたし」は、
手足もそして髪まで地面に
くくりつけられていた。
「わたし」を取り囲んでいたのは
小人の兵隊たちだった…。

こんなに面白い小説だったとは!
「名前は知っているけど
読んだことのない小説」
海外部門屈指の作品。
子どもの頃に絵本か何かで知った
小人の国や巨人の国のお話など、
表面的なものに過ぎません。
作品全体に貫かれているのは
政治や体制に対する批判と風刺、
そして人間嫌い。

本作品は全体で
4つの話に分かれています。
第1話は誰でも知っている小人国。
ガリバーが小人たちに
髪の毛や衣服を
地面に打ち付けられている絵が
すぐイメージできると思います。
それが第1話「リリパット渡航記」。
第1話だけあって、
批判風刺は前面に出ていません。
発想の面白さで引きつけているのです。

この第1話で大切なのは、
ガリバーが「国」を
上から見る機会を
与えられていることです。
法律を遵守する小人国の政治体制を、
自分の国イギリスと比較して
あれこれ述べています。

「この国では、
 七十三ヵ月間にわたって
 法律を遵守したと証明できれば、
 誰でもそれなりの特典を
 受けられることになっている」
と、
ガリバーは順法精神の高い
リリパット国を賞賛してます。

さらに、
教育制度についても
その合理性を讃えています。
しかしその中身は…。
すべての市民に
教育を受けさせるとしているものの、
「小作農や季節労働者は、
 子どもをそれぞれの家庭で育てる。
 これらの人々は
 農地を耕すだけなので、
 教育を受けさせてもその結果が
 社会に反映されないからだ。」

このあたりは先日取り上げた
黒島伝治の作品に登場した
人々の考えと似ています。

ガリバーは、というよりも、
著者スウィフトは、
イギリスの政治や体制に第2話以降
散々文句を並べているのですが、
身分制度については
当然のこととしてとらえています。
イギリスは、階級社会が
現在でも色濃く残っている国です。
それは教育にも表れていて、
いわゆる名門大学に進学するのは
上流階級の子弟が
圧倒的に多いと聞きます
(最新の事情はわかりませんが)。
ましてやこの小説が書かれたのは
今から200年近く前のことです。
「人間は誰でも平等である」などと、
スウィフト自身、
考えたことはなかったのでしょう。

ガリバーがこのあと訪れる国は、
後になるほど
理想郷に近づいていきます。
小人国はまだまだ
理想にはほど遠いらしく、
隣国ブレフスキュと戦争状態。
理想的な国家建設は、
小説世界でも現実世界でも
難しいということでしょう。

(2018.11.28)

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